過去編・その2

離れて、戻って、山の使いへ

あらすじ

街での暮らしを経験した成人期のスミー。
住意山との結びつきを再発見し、のちに「山の使い」としての生き方を選ぶ。

目次

【遠くなる山】

社会人になってからのスミーは、故郷を離れて街で暮らし始めた。
仕事や人間関係に揉まれながら、さまざまな経験を重ね、街での生活に馴染んでいった。

そんな日々の中、ときどき故郷の方角をぼんやりと眺めることがある。
ここでしか見られない景色も、意外と悪くはない。
それでも、あれほど特別だった住意山が、次第に遠く、薄い存在に感じられるようになっていた。

山の様子を直接見に行けない分、山が今何を思っているのかも、以前ほどには伝わってこない。
昔なら、もっと自然に感じ取れていたはずなのに。
そのことが、どこか物寂しかった。

気づけば、いつもより長く故郷の方角を見つめている自分がいた。
山がこちらを見つめ返してくれるかもしれない……と、淡い期待を向けながら。

【再会の日】

真夏のお盆の時期、スミーは久しぶりに実家へ帰った。
昔のように、気まぐれに林道を歩いてみる。

奥地へ進むにつれて、記憶の底に眠っていた感覚が蘇ってくる。
木々の囁き。土の匂い。柔らかく踏みしめる苔。遠くから聞こえる水の音。
そして、自分の心に寄り添うような、あの山の気配。

山を一度離れたことで初めて、スミーは自分と住意山がどれほど深く結びついていたのかを、改めて知る。

【選び取る暮らし】

街へ戻ってから、スミーは考えるようになった。
自分はどんな価値観を大切にしたいのか。
どんな暮らしなら、心地よく生きていけるのか。

自然豊かな場所で、ひとり静かに暮らしたい。
そして、故郷の住意山に帰ったときの、あの感覚も恋しい。

そう思ったスミーは、少しずつ資金を貯めながら、山奥への移住を計画することにした。

車には乗り慣れていたため、街と山を行き来する生活にも不自由はなかった。
業者と何度も相談を重ね、必要なものを一つずつ選びながら、自分の暮らしに合ったログハウスを建てていく。

長い時間をかけて、ついにログハウスが完成した。

【住意山と生きる】

スミーが移住のために帰郷して以来、住意山との共鳴が再び始まる。
互いの心が重なり合う喜びとともに、山との結びつきをはっきりと自覚したスミーは、いつしか「山の使い」を名乗りだす。

山の使いとしての日々は、ここで終わりではない。
山の様子を直接見届けられるようになったぶん、これまで気づけずにいた環境の乱れにも、正面から向き合うことになる。

スミーはひとつずつ、山の残した記憶に優しく目を向け、傷ついた土地を手入れしていった。
その記憶はどこか、自分自身のもののようにも思えた。

そうやって過ごす時間は、想像していたよりずっと長くかかった。
焦らず、気負わず、押し付けもせず。自分のペースで。
これが彼女なりの「山の使い」としての在り方だった。

こうして現在に至るまで、スミーは山奥のログハウスで静かな日常を送っている。
ようやく手に入れたかけがえのない平穏を、大切に守り続けながら。