キイクーの影
2022年8月21日
あのキイクーにも影はある。
ひとつは透明人間の姿であり、なんでもない、何者にもならない、いつものキイクーである。
もうひとつは真っ暗闇に隠されたタコツボの姿。
キイクーの影(タコ)は色欲の化身、カイツの影(猛獣?)は物欲の化身。
キイクーの影(透明)
透明な影は主体性が薄い。そのぶん、周りの情報と同化しやすい。
同化しやすいと、その情報が肌に密着するような、耳元で囁かれるような、そんなダイレクトな繋がりが形成される。
この特性はスズハの手札にも影響している。
感覚過敏に陥ったスズハは同化を断とうとして、独りの世界に籠る。
一方でキイクーは籠らず、同化したまま溶け合おうとする。
そして透明なキイクーの影は、色を変え姿を変え、相手の懐のスキマに入って順応することができる。
厳密に言うと、順応「したがっている」。成功しているかはともかく、そうしたくて目指しているだけという。
もとからキイクーには「透明」「液体」という認識があった。
ウラや本質を探ろうにも、本質なんてないよ、これが今ある全部だよ、と言わんばかりに。
キイクーの影(蛸壺)
今回の本題はもうひとつの、蛸壺の影。
その壺の穴は、腕から肩まですっぽり突っ込めるけれど、頭は入らないサイズ。
つまり引っ掛かって詰まることがない、ちょうどいい穴。
穴からは少し温かい空気が柔らかく出入りしている。
壺を触ればわずかに鼓動が伝わる。耳を当てるとそれがはっきり聞こえる。
中を覗いても、手を入れても、何があるかは全くわからない。
実はその壺には異空間が広がっており、人よりも巨大なタコの怪物が棲んでいる。
心臓のように赤黒く脈打つその怪物は、見た目が見た目なのでおおっぴらには出せない。モザイクをかけるしかない。(見せられないよ!)
キイクーはその壺ごと真っ暗闇に隠している。
それでもタコの怪物とは仲がよく、時々スキンシップをとって遊んでいるらしい……
無害な影たち
キイクーの影たち、攻撃力は低いけど回復が早い。
彼らの構造上、恐れの感情やトラウマの蓄積がないから。「今」が全て。
透明な影もタコの影も、キイクー本人の自己認識と一致している。
なので、それらの影はキイクーによく懐いており、非常に相性が良く、影のほうも危害がほとんどない。
(身の危険を感じていない限りは反撃してこない)
しかも、これらの影は反撃が得意じゃない。
透明&受け身すぎてパワーのない影と、いくら暴れていても壺から出ないタコ。
せいぜい本体のキイクーが苦しんだり怒ったりするくらいである。
内臓だけが暴れてても非力なもんですよ……
(ちょっと余談)伝わらない、だから非力
(たとえば拷問などで)どれだけ個人が痛がっていても、のたうち回っても、叫んでも黙っててもどうしようもないのと一緒……
他人とは同じ感覚を味わえないし、そうした痛みは「話せばわかる」なんて効かない領域。言っても伝わらない限界がそこにある。
個人の中で充満する感覚は自己完結しかできず、傍観者からすればリアルな実感がどうしても不可能なものだから、他人にとってはほんとうにちっぽけに見えてしまうものです。
客観性が主観をないがしろにする場面はこうして生まれる。
この断絶は、キイクーの同化能力と真逆の概念だねえ……