ボクのかたちを知る、の巻
2025年10月20日~
前置き
※ この作品は「ワタシに会いたい、の巻」の続編です。
※ 前作を読まなくても大丈夫です。
【登場人物】
タイナ(太):蠍座の太陽。主人公。今回はミイサの心を探る旅へ。
ミイサ(海):山羊座の海王星。幻影を映す特殊能力『イリュージョン』が使える。
part0 タイナの願い
あの頃、ワタシは本当の自分に会いたかった。
冷たい鏡じゃ足りなくて、心の奥にあるぬくもりに触れたかった。
そんな願いを抱えて、ミイサと心の旅に出た。
彼の哲学と、優しい声に導かれて。
ミイサは不思議な人だった。理知的で冷静なのに、どこまでも寛容で、柔らかい。
それでいて、霧のように掴みどころがない。
もう一度、彼に会いたい。
今度は、ミイサの心の形を知りたい。
その願いを彼に伝えたとき、彼は静かに頷き、再会の約束が結ばれた。
そして今日、彼の家へ向かう。
ワタシの心に触れることが叶った、あの日の余韻を、何度も思い出しながら。
part1 再会
- 太 (……ここが、ミイサのいる部屋……)
- 太 「入りますよ。開けてもいいですか?」
- 海 「うん。どうぞ」
- 太 「では……」
- 太 「久しぶりですね、ミイサ」
- 海 「ようこそ、タイナ。待っていたよ」
- 太 「この祭壇も相変わらずですね。丁寧に並んだ道具、お香のいい匂い。どれも懐かしいです」
- 海 「今日はボクの心について知りたいんだったね」
- 太 「はい」
- 海 「キミがここに来ると聞いて、ある予感がした。ボクに夢の続きを見せてほしいんだろう?」
- 太 「……その通り。さすがですね」
- 太 「ワタシはかつて、自分の心に『会いたい』と願っていました」
- 太 「そうして以前この祭壇を訪れたとき、アナタは優しく導いてくれましたよね」
- 太 「『ワタシはいつでもここにいる』……と」
- 太 「夢のような儚い体験でしたが、あの実感だけはどうしても、忘れられません」
- 太 「だからあの時みたいに、今度はミイサの心に触れたいと思ったんです」
- 太 「だって、アナタ、掴み所がないじゃないですか」
- 海 「フフ、そう見える?」
- 海 「キミが来るまでの間、ボクも自分なりに考え尽くした。キミに示せる『ボクのかたち』とは、一体何なのか」
- 海 「その答えを共有する前に……ひとつ、大切なことがある」
part2 心の旅へ
- 海 「心は繊細で、誰にとっても神聖な領域なんだ。軽率に暴くことはできないよ」
- 海 「だけどキミの願いは、その一線を越えつつある」
- 海 「まるでボクの心臓に直接手を添えたいと、そう願うようなものだね」
- 海 「近くにあるのに触れられない。触れようとすれば、命に関わるほどの危うさを秘めている」
- 海 「……でもね、タイナ。キミにならいい。ボクはちっとも嫌悪を感じない」
- 海 「たいていの人が持っていて当然の、恐れや不安。そういった部類の感情とは縁がないんだ」
- 太 「やっぱりミイサって……常識の向こう側にいる、不思議な人ですね」
- 太 「だからこそ、もっとアナタのことを知りたくて、こうして会いに来たんです」
- 太 「静けさに覆われ、頑丈な理性に守られている感情。その温度に、つい、手を伸ばしたくなります」
- 海 「それがキミの興味の発端だったんだね」
- 海 「そうだ、キミは太陽の象徴を授かった者。しかも蠍座の太陽だ。キミには深層を鋭く照らす力がある」
- 海 「そしてボクは山羊座の海王星。神秘を構造で守り、構造に神秘を見いだす者」
- 海 「確認だけど……いいのかい? 本当に。ボクは海王星だよ」
- 海 「心はただでさえ神秘的なのに、ましてや曖昧な幻想を司る『最果ての惑星』が相手となると……その深層にまで踏み込むのは、きっと簡単なことじゃない」
- 太 「ええ、それでも覚悟はできています。今はただ、ミイサの内面に、ちゃんと向き合いたいんです」
- 海 「いい目をしている。それでこそキミだよ」
- 海 「……よし。魔方陣の準備は整った」
- 海 「これから『イリュージョン』を始める。ボクの中にある幻影を、この空間に映し出そう」
- 太 「すでに空気が変わってきたような……」
- 海 「今すぐ目を閉じて。いざ、心の旅へ」
part3 意識の世界
- 海 「もういいよ。目を開けてごらん」
- 太 「あれ……? さっきまで居た祭壇の部屋と変わらないですね」
- 太 「これがミイサの精神世界なんですか?」
- 海 「そうだよ」
- 海 「かつてキミに語ったね。ボクらは常に自分の意識の中にいる、と」
- 海 「意識がこの世を照らそうとし、この世の輪郭に色を付ける。その光のベールの中にボクら自身が包まれているんだ、と」
- 海 「だからここも、ボクの意識が現実世界を解釈して再構築した空間なんだ」
- 太 「これがミイサの意識の姿……その中に今いるんだと思うと、不思議な心地がしますね」
- 海 「現実世界と少し違いがあるのが分かるかな」
- 太 「中心部以外は、輪郭がぼやけているようですが……」
- 海 「うん。そうみたいだ」
- 太 「灯りの炎が揺れるのに合わせて、この世界もわずかに揺らいでいるような……そんな気がします」
- 海 「外縁が不鮮明なのはボクの知覚の限界であって、『イリュージョン』の限界でもある」
- 海 「そもそも、ボクが『心』をどう捉えているかによって、見える世界の輪郭も変わってしまうんだ」
- 海 「心とは何なのか。その定義次第では、イリュージョンとして映せる光景が全く別物になるのだよ」
- 太 「なるほど……ミイサは自分の意識をこんな風に捉えているんですね」
- 太 「ところで、ワタシがもう一人いますよ」
- 海 「どうだい? 自分と再会できた気分は」
- 太 「これってつまり、ミイサにとっての、自分……」
- 太 「輪郭がはっきりしているということは、ちゃんと感じてくれているんですね。ワタシのこと」
- 太 「なんだか……照れますよ」
- 海 「……ふふっ。そうかい」
- 海 「この風景は、ほんの氷山の一角。あくまでも意識の表層をなぞったものにすぎない」
- 太 「たとえ表層でも……れっきとした心の一部ですよね」
- 太 「世界の捉え方と、アナタ自身へのまなざしが、この風景からにじみ出ているように思えます」
- 海 「ありがとう。キミはボクの思想を受け止め、誠実に共鳴を示してくれた」
- 海 「そんなキミに見せたい景色が、まだまだ沢山あるんだ」
- 海 「さあ、さらに潜ろう。案内するよ」
part4 記憶の世界
- 海 「さっきは『今この瞬間』の処理を見ることができたね。次は過去に遡ってみようか」
- 太 「ミイサの過去……?」
- 海 「なに、心配ないよ。ボクの過去には闇も傷もない。ただ懐かしい記憶が横たわっているだけだ」
- 海 「神に一目会いたい一心で、この世の真理を追い求め続けてきた。純粋に、ひたすらに。その蓄積がね」
- 海 「まずは、少しだけ思い出を手繰り寄せてみよう。どんな記憶が見えてきたかな?」
- 太 「あっ! ワタシとミイサが瞑想めいたことをしています。もしかしてあの時の……」
- 海 「うん。当時のキミは、自分自身の心に触れたいと切望していたね。そしてキミは自己の片鱗に触れることができた」
- 太 「あの時は本当にお世話になりました」
- 海 「そうかい。ボクにとっても貴重な機会だったよ」
- 太 「この記憶から見えてくるミイサの心って……」
- 海 「ボクはあの時、キミの願いに寄り添おうとした。そしてキミの感情を一つ一つ観察したんだったね」
- 海 「まさか今になって観察される立場になるとは」
- 太 「アナタは今も当時も、どこまでも寛容で、どこまでも冷静で、優しさを崩さずに語りかけてくれました」
- 海 「おや。そう思っていたのかい」
- 海 「それもボクのひとつの輪郭……ということかな?」
part5 輪郭を探る
- 海 「でもね、タイナ。ボクの輪郭はそれだけじゃないよ。例えば……」
- 太 「場面が変わったと思ったら、今度はテンナが出てきました。……って、何か揉めてませんか? 怒ってますよ、テンナ」
- 海 「大した喧嘩ではないよ。ボクとテンナは腐れ縁でね。彼があまりにも『らしくない』時には、ちょっかいをかけることもある」
- 太 「なんだか楽しそうに語りますね」
- 海 「楽しい……か。そうかもしれないな」
- 太 「ワタシに対しては、ここまでのことはしないはずです。でもテンナには挑発もやってのける」
- 太 「やはりアナタなりの手加減があるのでしょうね」
- 海 「ウフフ。そうだとも」
- 太 「そういえば、ミイサはアイノチとも親交があるんでしたね」
- 海 「よく知っているね」
- 太 「彼女がよくアナタとの近況を語ってくれます。無口なあの彼女がですよ。アナタのこと、よっぽど信頼している証です」
- 海 「アイノチとは、畑を通じて仲良くなったんだ。ボクが自給自足をするっていうから、農作業に詳しい彼女が協力してくれた」
- 太 「確かミイサの家の庭には野菜畑と麦畑がありましたっけ」
- 太 「あの畑は、お互いが接しあうことで生まれた、共同作業の賜物だったんですね」
- 海 「ふむ……それにしても」
- 海 「寄り添い、からかい、信頼と協力。それらも他者との接点から生じた、ボクの輪郭だというのか」
- 太 「相手によって変わるんですね。ペルソナ……って言うんでしたっけ? ミイサにも色んな顔があるってことですね」
- 海 「仮面、か。演じているつもりはなかったのだが」
- 太 「きっと、他人がいろんな色かたちをしているからこそ、反射する色も変わってくるのかもしれません」
- 海 「ボクにもキミにも、そして誰にでも、それぞれの『心の輪郭』があるのだろうな」
part6 過去の原風景
- 太 「色んな人との関係が、アナタの輪郭を揺らしていましたが……」
- 太 「独りのときのミイサは普段、どんな素顔なんでしょうか?」
- 海 「普段のボクか……」
- 海 「瞑想したり、書物を読んだりしていることが多いかな」
- 海 「そうした時間こそ、真理を探究できる絶好のチャンスだから」
- 太 「勉強熱心なんですね」
- 海 「昔からなんだ。ずっと変わらない気がする」
- 海 「そうだ。今度はボクの原点を見せてあげるよ」
- 海 「これから映し出すのは、思いつく限りで最も古い記憶だ」
- 太 「わ! 空間が急に動いて……風景の重なりが……走馬灯のように流れてます」
- 海 「しばらく待ってて。一番いいのを思い出すから」
- 海 「……これだ」
- 太 「ここは……! 狭い部屋ですが、書物が大量に……」
- 太 「それも乱雑じゃなく、整頓された状態で……まるで小さな図書館みたい」
- 太 「奥でノートを写している少年が、昔のミイサでしょうか?」
- 海 「うん」
- 海 「幼い頃のボクは自然科学に夢中だった。銀河から砂粒まで、すべてが学びの宝庫だった」
- 海 「そして、数式や化学式が、神を物語る言葉に思えた」
- 海 「ボクにとっての神とは、現実世界に編み込まれた『仕組み』や『構造』そのものだったんだよ」
- 海 「……でも、皆にとっての神様って、それだけじゃないよね?」
- 海 「科学の力ではどうにも届かない、霊的な領域。初めて知ったときは衝撃が走ったよ」
- 海 「それからは、霊的な分野を学ぶことにも傾倒するようになったんだ」
- 太 「科学も、霊性も、真理へのまっすぐな思いも……全部、アナタの中でつながってる」
- 太 「過去の体験が土台となって、今のアナタを支えているのでしょうね」
- 海 「ねえ……タイナ。もう少しだけ、この空間に浸ってもいいかな」
- 太 「それほど大切な記憶だったんですね。アナタの気がすむまで、そばにいますよ」
part7 もっと奥へ
- 海 「……うん」
- 海 「思い出を堪能できたよ。キミのおかげだ」
- 太 「今のミイサ、いつにもまして声色が温かい気がします」
- 太 「この場所って、記憶と感情が眠る倉庫みたいですよね。だからここにいると、ミイサの心も自然と緩んでいくのかもしれません」
- 海 「……そうか。この空間が動くたびに、ボクの感情まで刺激されているんだな」
- 海 「次は、記憶の層を越えて、さらに深いところへ向かおう。今度こそ、心の本質に触れられるかもしれない」
- 太 「もしかして、無意識の……」
- 海 「そうだね。そこだけは今までの景色とは訳が違う」
- 海 「ここから先は、意識では捉えきれない領域。本来ならば真っ暗で、透明で、それなのに強く響いている」
- 海 「そんな場所をイリュージョンでどう見せればいいのかが、一番悩ましかった」
- 海 「再現しようとしても、どうしても掴めない。そのたびに、内側の深みに引きずり込まれていく感覚がした」
- 海 「怖くはない。ただ、自分そのものが揺らぐ予感がして、緊張するね」
- 太 「ワタシは正直、不安です」
- 太 「でも、ミイサの心の奥にあるものを見届けたい。この願いは今でも変わりません」
- 海 「ボクも、この目で確かめたくなった。学びに身を捧げたボクでさえ知らない世界が、まだあったのだな」
- 海 「よし。探ってみようか……ボクらを動かす偉大な力!」
part8 無意識の世界
- 海 「さあ、着いたよ。深淵の世界へ。この空間には今、心の奥底に敷かれた無意識の幻影が、あえてビジョンとして映し出されている」
- 太 「す、すごい……圧倒されそうです」
- 太 「鮮やかな色彩に、幾何学的な模様……まるでマンダラみたいですね」
- 海 「この無意識はボクの生命維持に関わる、根源的な装置のようなものだよ」
- 海 「見てごらん、タイナ。空間全体がまるで機械のように、規則的にうごめいている。呼吸のようにも、脈打っているようにも見えるね」
- 太 「はっきりとは理解できませんが、なんとなく伝わってくるものがあります」
- 太 「今この瞬間にも、ミイサの心が『生きてる』んだなってことが」
- 海 「うん。キミの心もきっとそうだよ」
- 海 「ああ……実に素晴らしい。なんて豊かで、整っていて、深いんだ」
- 海 「このマンダラのうねりを、ただの幻影として片付けるにはあまりにも惜しい」
- 海 「確実にボクの中で響き合っている。意識の奥で、何かが応答しているような」
- 海 「そうか……! 見える、見えるよ。やっと分かった。神の一端が、ここにあるんだ!」
- 太 「神、ですか?」
- 海 「ボクが幼い頃から信仰対象として追い求めてきた『この世の原理』。その縮図が、神の息吹が、ここにも宿っているのを感じる!」
- 海 「この装置は、ただ生命を維持するだけじゃなかった。内側から世界を解釈し、再構築する力を備えた『神経の曼荼羅』なんだ」
- 太 「あの、嬉しそうですが、その表情……」
- 海 「嬉しいだって? 当たり前だろう。神の営みに直接立ち会えるなんて、こんなチャンスは二度とないかもしれない」
- 海 「そう。ボクの魂はまさに、歓喜に震えている!!」
- 太 「声や手先まで震えてるじゃないですか。やっぱりいつものアナタじゃないですよ」
- 太 「しかも、今……どこか遠くへ行ってしまいそうな目をしています。まるで何かに取り憑かれたみたいに」
- 太 「少し怖い。こんなミイサ、今まで見たことがない」
- 海 「これだ。これこそが、ボクの中にあった神の構造……!」
- 太 「あ、あの、聞こえてますか?」
- 海 「もっと……! もっと近づきたい。細部まで詳しく見せてほしい」
- 海 「願わくばずっとここにいたい、繋がっていたい。このまま、永遠に」
- 太 「ま、待ってください。それ以上は」
- ? 「止まるんだ。ミイサ」
part9 理性の声
- ? 「この先は、キミの輪郭が保てなくなる。戻るべきだ」
- 海 「……! この声は……」
- 太 「ミイサにそっくりな声が、重く響いている……」
- 海 「……う……しかし……」
- 海 「いや、今なら触れられる。今なら、超えられる気がする」
- 海 「ボクは神を求めてきた。ずっと、ずっと。心の底から。だから……!」
- ? 「いけない。触れた先にあるのは沈黙と混沌だ」
- ? 「無意識の装置と一体化すれば、自我は沈み、ただ生きて眠るだけになる」
- ? 「それは涅槃のようで、全く違う。妄想に曇らされ、思考も感性も失うことが、本当にキミの真実なのか?」
- 海 「もういい! どうだっていい! むしろ本望だ!!」
- 海 「意識が沈んだって、輪郭が溶けたって構わない。ボクは海王星だ!」
- ? 「それだけじゃない。海王星でありながら、山羊座にも属する」
- ? 「山羊座の価値観が守るものは、確かな骨組み。キミが深く愛していた、構造そのものだよ」
- 海 「嫌だ……やめてくれ……そんな、そんなふうに言われたら、どこにも進めなくなる……」
- ? 「忘れないでほしい。キミは神秘と秩序の両方に向き合ってきた」
- ? 「夢を追うなら、足場を見失わないこと。今ならまだ、引き返せる」
- ? 「その力を信じている。だから、お願いだ」
- 太 (ミイサ。どうか戻ってきて)
- 太 (アナタの願いがどれほど純粋か、ワタシは知ってる)
- 太 (でも、その先にあるものが、アナタを壊してしまうなら……)
- 太 (引き止めたい。でも今は、ただ見守るしかない。この道を決めるのは、アナタだけの自由だから)
- 海 「…………」
- 太 (ああ、ミイサ、どうか……!)
- 海 「……わかった。撤退しよう」
- 海 「たとえ何かを得られたとしても、戻れなくなるなら意味がない。そう言いたいんだろう?」
- 海 「だからボクは、輪郭を保ったまま、ここにいる」
- ? 「それでいい。さあ、目を覚ますんだ」
- 太 (模様が、色彩が……イリュージョンが……ほどけていく……)
part10 幻影を抜けて
- 太 「消えてしまいました。何もかも」
- 海 「ああ……」
- 太 「さっき話してた声、ミイサに似てましたよね」
- 海 「おそらくボク自身の理性だろう。あるいは……ハイヤーセルフかもしれない」
- 海 「取り乱して、すまなかった。危うくキミまで巻き込むところだった」
- 海 「あの空間に共鳴しすぎて、感情を制御できなかったんだ」
- 太 「いいんですよ、全然。無事に帰れたじゃないですか」
- 太 (……でも、あの時のミイサも、魅力的でしたよ)
- 太 (普段は決して見せない、感情の震え。それがどうしようもなく美しかった)
- 太 (いけないと分かっていても、目を逸らせなかった)
- 太 (ずっと触れたかった『心』に、ほんの一瞬でも触れられた気がして……)
- 太 「まだ、名残惜しそうに見えます」
- 海 「あれほど深く響いた空間は、今までなかった。離れるのが惜しくなるのも、仕方ない」
- 海 「惜しかったよ。でも十分だ。ボクらは確かに『それ』に立ち会えた」
- 海 「そして、確信できた」
- 海 「ボクが信仰している神とは、この世の原理そのもの。それはボクの中にも宿り、まるで一つの宇宙のように、息づいていた」
- 太 「ワタシも見届けましたよ。この身でちゃんと、感じ取れました」
- 海 「満足したかい? タイナ。今まで見てきた全てがボクの心だったということ。これはボクにとってもいい機会になった。嬉しかったよ、とても」
- 太 「はい。ワタシも同感です。アナタの心の形が、こんなにも豊かだったなんて」
- 海 「ありがとう。そう言ってくれて」
- 太 「一旦外に出ましょうか」
- 海 「そうだね。気分転換するとしよう」
- 太 「いつの間にか、日が暮れそうです。もうこんな時間ですか」
- 海 「美しい……見事な夕焼けが広がっている」
- 太 「ええ。それに、乾いた風が心地いいですね」
- 太 「もうしばらく、この風の揺らぎを感じていたいです」
- 太 「……ワタシ達の、揺れる心と共に」
~おわり~